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【短編】 タランチュラ 3 〜人外魔境 外伝〜
2009-03-07
確かめるように進めていた歩はいつしか足早に、無心にコバルト・ブルーの色合いを探し求める。頭上高くで聞こえた羽音に、やっと我に返った。
先ほどよりも尚も深い深い緑が目に蘇る。
そこで、やっと自分が入ってきた方向すらわからない奥深くへと入り込んでいる事に気がついた。
自分の位置を確認する為にゆっくりと周りを見回してみた。全く自分がどう進んできたのか分からない。
どうしよう!!
心の中で大きく叫んだ。
それと同時に耳に入ってくる全ての音が遮断された。胸が不安に高鳴る。手足の先が冷え目の前が暗くなるのを感じた。
軽く襲ってくる目眩に、バランスを崩し地面に手を突いた。
パニックを起こしかけている。自分自身の状況を悟って目を閉じ小さく息を吐く。
胸の鼓動だけが耳についた。
今度は深く息を吸って吐いた。
次に二度吸って二度吐く。胸式では駄目だ。複式でゆっくりと呼吸をしていることを意識するのだ。
大丈夫。慌てるな・・・・。
自分自身に言い聞かせる。どうにもならない状況で、慌てたところで何も得るものはない。
規則正しい鼓動を取り戻した胸に手を当てて、もう一度息を吸って吐き瞼を開けた。
瞳に映る景色が色彩を取り戻したのを確認してゆっくりと立ち上がった。ふらつきはない。大丈夫、立てる。
こんな風に動揺したのは久しぶりである。
樹海・・・・とはこういうものなのだろうか。
自分の置かれている現実から離れて、まじまじと景色を堪能した。
自慢できたものではないが、現実から逃避するのは得意である。
今更、ムタイの言うことを聞いておけば良かった。などと後悔するのも、自分の好みではない。
それに一人で立ち入ったのは悪かったが、そもそも今は夜ではなくまだ夕刻だ。などと訳の分からぬ屁理屈をこねてみる。
兎に角、起こってしまったものは仕方がない。
これからどうするかを考える方が性に合っている。運が悪ければこのまま果てるかも知れない現実を考えつつも、悲観に暮れる気にはならないのだ。
さて、と腕を組んだわたしの背後で何かの気配がした。
振り向いても何かがいるわけではなかった。気のせいなのだろう。
だが、ざわめく葉がまるでわたしを誘っているかのように見える。
これ以上はあまり動き回らない方がいい、と知っていながら、あともう一歩と促す自分がいた。
ゴクリと喉を鳴らして生唾を飲み込む。
ここまで来て今更、好奇心を抑える事など出来はしない。
過ぎたる好奇心は身を滅ぼすとはよく言ったものよ、と浮かぶ言葉に口のはしが微かに上がる。わたしは完全にこの状況を楽しんでいた。
ええいままよ。と木々を分け入ったその先は、今までの連立していた樹木が嘘のように突然に途切れ広く湿地が姿を現す。
それは不思議な光景だった。
天上から射し込む陽は柔らかく反射し土色の地面を仄かに木々のエメラルドの色へと染めあげている。
丁度目の高さの位置迄、段状を形成し一際の盛り上がりを見せる土の周りに、祭壇のように不思議な紋様の彫り込まれた石が整然と並べられていた。
その背面を彩る原色のままに咲き誇る大輪の花の鮮やかな色の洪水が目に押し寄せる。
穏やかに落ち着きを見せる色彩の中心部に再び視線を移す。
僅か4〜5m手前、目の高さまでに盛り上がった土のその上に現れたのは、目に焼き付いて離れなかったコバルト・ブルーの持ち主だった。
全身は見事なまでの艶やかなビロードの体毛に覆われ、肉厚な足がコバルト・ブルーに輝く巨大な土蜘蛛。
コバルト・ブルー・タランチュラ。
即座に俗称が浮かぶ。
同時にわたしの脳裏には疑問が浮かんだ。
しかし、この種は主に亜細亜に生息する筈なのに、何故この南米に?
つづく


