第664回「あなたにとってのおふくろの味は?」
2009-02-01
おふくろの味?
うーん、と一考する。
自分の場合はおやじの味だな。
突然食べたくなるのは、日曜の朝、みんながぐーたら寝てる中、とーちゃんが作ってくれた卵ととろろと醤油と味の素のすまし汁。
それか、朝ご飯の日清の焼きそばか・・・(笑)
白ご飯に桃やのザーサイ・・・とか?
家庭で食べた味はそれしか覚えていない。
あ、小学校にあがる前に迷子になって、保護してくれたお家の人が食べせてくれた豆ご飯。
もう一度、食べたくなる。
ネコがたくさんいた記憶が残っている。
いや、確かに家庭でもちゃんとしたご飯を食べた記憶はあるんだけどね。
味・・・覚えてないなぁ。
中高校と自分はもっぱら朝昼夜とパンだった。
でも、本当は白ご飯が一番好きだ。
そっからは一人だから、自分で白飯を炊いて食べてるし。
おふくろの味って一般に言われるのは煮物?
里芋の煮っころがしとか、筑前煮とか?ひじき、きんぴら?そんなところか。
確かに好物だけども、何故かおふくろの味と言うイメージはないのは何故だろう。
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楽しい・・・とか?
2009-02-07
さて、毎回厳しい、厳しいと書いていても仕方がないので・・・・。実は自分は今とても楽しい。
仕事は短い時間に効率よくこなさなければならないけれど・・・と言っても前からわんこ、にゃんこの為に出来るだけ早く帰らなければならない自分は日頃そういった仕事のやり方をしていたのであまり苦にはならない。
ただ、それ以上に時間制約があるだけで、それもその張りつめた緊張感が何とも言えない。
そして、周りにも同じような空気が流れているのがひどく心地良いわけである。
これでやっと残業は美徳的な考え方が払拭される事だろう。それが覆される機会なのだと思う事にしよう。
しかし、サービス残業は、確実に増えたな(^^;)
今年に入ったばかりの頃は、経済危機と言われながら、自分たちには降りかからないだろう、多分大丈夫だろう、という根拠のない安心感から安穏とした空気が流れていたが、今になってやっと目の色が変わってきた・・と言う感じだろうか。
際にならないと慌てない・・・と言うのが不思議なのだが、日々精進しておれば良いだけのこと。
突然にやり始めると、しんどいだけだと思う。
さて、2月もいよいよ中盤へと向かう。
3月はすぐそこである。今の部署でも2/3は来期の契約更新をしない方針らしい。
3人いて2人・・・と言うのとは訳が違う。
モノを作る仕事は必要とされるモノがないと成り立たない。その現実がそこにある。
消費者のニーズに応える事の出来る商品とは何なのだろうか?
自分は何でも使えればいいや、と基本機能しか使わない人間なので、実のところ付加価値がよくわからない。
余計なモノは返って使いにくさがます。
誰でもが簡単に使える部品があるべきだ。とトランジスタや汎用TTLしかない時代思ったものだが、あっと言う間に、専用素子なるものが世に広まっり、誰でもが同じような構成で同じような製品を作れるようになった。
PCも、専門知識がないと使えない時代から、P&Pの簡単接続の時代を経て、今誰でもが簡単に使える時代だ。
そして今ある製品の殆どは誰でもが簡単に使えるものばかりだ。
その中で基本機能以上を更に簡単に使える製品・・・・が受けるのだろうか????
マニアくんを対象にしても仕方がないのでやっぱり一般大衆を見なければならないよなぁ。
アットホームな会社?とか・・・・
2009-02-11
就職情報誌だとかの謳い文句に『アットホームな会社』とか『楽しく仕事をする』とかがある。アットホーム・・・とはどういう事だろうか?
楽しく仕事をする・・・・とはどういう事だろうか?
実は自分は就業時間中に業務に直接関係ない話題は苦手だ。
『遊びごころ』とか言うけれども、それは、今やるべき仕事をほって遊の話題に花を咲かす事だろうか?
無駄口を叩きながら笑いながら仕事をするのは、楽しく仕事をする。と言うのとは違うと思う。
確かに笑いながら無駄話をしていると楽しいかもしれないけれども、それは決して仕事をしているのには当てはまらない。ただ単に仕事時間中である。という事だけだろう。
仕事を通していろいろな事を知る。それだけで『楽しい』にはならないのだろうか。
コミュニケーションが不足する。と言う言葉も聞く。
私語でコミュニケーションを取らねば仕事は潤滑に運ばないのも不思議である。昔は飲みにけーしょんなどと言ったのか。酒の席でコミュニケーションを図ることを・・・・それすら好きではない。
仕事そのもので徹底的にコミュニケーションを図れば良いのではないか?と自分は思う。
終業時間中はひたすら寡黙に真面目に仕事に没頭するだけではいけないのは何故だろうか?
私語は休憩時間中だけでいいと思う。
スーパーの駐輪場で・・・とか?
2009-02-15
駐輪場に4人の高校生の男の子が自転車を止めた。中の一人が禁止されている通路へと自転車を止める。
駐輪場には管理する人がいる。
通路に置いてはいけない。と注意を受ける。
注意を受けた子供は今度は出入り口の側の空いている通路に垂直に自転車を止めた。
別に駐輪場に空いている場所がないわけではない。
また注意される。
そこが空いているのでそこへ入れて。
と場所を指定されて、やっと駐輪場に止める。
止めたが、ちゃんと止めない。
黄色い線で仕切られた場所から後輪を大きくはみ出させて止めて、そのまま友達と行こうとする。
もう管理人さんは何も言わなかった。
黙ってそのはみ出している自転車を通行人の邪魔にならないように位置を変えた。
こんな簡単な事も自分で判断する事の出来ない子供・・・いや大人も数多い、が増えている。
子供・・・と言っても小学校の低学年と言う訳ではない。
高校生ともなれば、既に常識など学び終わっている年齢だ。
注意されても考えないのでその注意が身に付かない。
こういうのはどうしたら改善されるのだろうか?
第679回「花粉症ですか?」
2009-02-21
花粉症ですか?
と問われれば、YesでありNoである。
『花粉症』と一つに限定されると困るのである。
自分はアレルギー体質である。
だから決してアレルゲンが花粉だけというわけではない。数限りなくあるアレルゲンを持っていて、花粉に反応する時もあれば、反応しない時もある。
その時の睡眠時間や体調、そしてストレスのかかり具合に大きく左右する。
だから、毎年この時期に酷く苦しむと言うことはない。
たかが鼻水や鼻づまり、頭重、涙目、目の痒み・・・・症状が出たら苦しいけれど死ぬわけではない。
自分にとっては要注意季節は秋から春にかけてなので、花粉注意報を見てもそれほどには憂鬱にはならない。
自分にとっては、単なるライフサイクルの一環である。
今年は、既に症状が出始めている。
花粉の飛散が例年より早いのか???
まあ、何とかなるっしょ。そうやって上手に付き合って長年やってきたのだから(笑)
羅患者が増えたからといって世間が、やたらと『花粉症で・・・』と大騒ぎをするのが不思議だ。
こんな言葉が流行る前、地道に一人一人が対策をして乗り切ってきた筈だ。今は、いろいろなグッズが勢揃いしているのだから、テレビでいちいち注意を促してくれなくても個々人が早期に対策すればよい。
まあ、それで安心する人がいるのなら、それはそれで良いけれども。
飛散量が多い少ないで、左右されるのは軽い人くらいで重いと僅かな量でも反応するのだから・・・・(^^;)
自分にとって最も必要なのは最新の免疫系統の治療情報だろうな。
それすらも慣れの前にはさほどの重要性を感じていない。
第677回「お茶は熱い派?冷たい派?」
2009-02-22
お茶は熱いか冷たいか・・・・・
”お茶”を緑茶を指しているものとすると、熱い方がいい。
でも、猫舌なので熱いのは飲めない、ぬるく冷ましてから飲む。
ちなみに猫舌というのはネコに限らず、動物には火を使う習慣などないからどの動物も、本来は熱い食べ物は苦手なのである。
しかし、人と共に生活をする内に熱い食べ物も口にするようになって食べられるようになる。
だから、うちの猫の中には熱いのを平気で食べられる子がいた。
犬と猫の対比で生まれた言葉なのだろうか?
犬の方がより多く熱い、もしくは暖かい食べ物を与えられる機会が多かった。と言う事ではないだろうか?
事の真偽はしらん。あくまで推測だ。
そんなどうでもいいことを考える事が楽しいのだ。
さて、お茶に話を戻す。
お茶は夏場も冬場も暖かいのに限る。
そして、出来るだけ濃く、渋く。葉の量は通常の1.5倍を使う。
深蒸し茶がお気に入りである。
玉露は・・・・今一つ好きではない。
抹茶入り、も最近よく見かけるが、抹茶は抹茶だけで飲むのがいい。無駄な味の装飾はいらない。
近くでは京都宇治の銘茶があるが、自分はどうやら静岡茶の方が好きなようだ。
今年は、お湯を沸かす時間を惜しんでいるので家でお茶を煎れる事が無かったが、久しぶりに渋茶をすすってみようか・・・。
お茶のおいしい温度は何度・・・とか、自分には関係がなかったりして(^^;)
【短編】 タランチュラ 2 ~人外魔境 外伝~
2009-02-22
今日が終わるにはまだ十分に間がある。ムタイは今日の予定を確認してきた。「疲れたからゆっくりと休みたいわ。そうね、明日の正午に・・ううん、その時に連絡を入れさせて頂戴」
一週間のガイドと言っても何もつきっきりではない。必要な時に予定を入れるだけでいい。
わたしは一人で過ごすことを望んだ。それなら何もガイドはいらないじゃないか、と思うが、やっぱり一人だけでは心細い。彼の存在はわたしの安心材料といったところだろうか。
ムタイはそんなわたしの言葉に頷いて、黙って帰っていった。
わたしの計画はこうだ。
夜までの時間、ゆっくりと眠り身体を休める。そして例の密林へと探検に出掛けるのだ。誰にも気づかれぬように・・・・。
禁止されている領域、恐らく近くにいる者は誰もいないだろう。人目につかずに思う存分に探索する事が出来る筈である。いろんな事を想定して自分の行動パターンを幾つか考えて過ごす。
時差のせいもあり、そんな事を考えていると頭は冴え渡り神経ピリピリと張りつめてくる。眠るどころではなくなってしまったのである。
眠れないとなると、日々、時間に追われて秒刻みに過ごしてきたわたしにとって、さすがに一人で部屋で過ごすのは流石に時間を持て余す。
何でもあった世界と違いこちらは何もない世界である。
何もしないでじっとしている事に慣れていないわたしにとって、何もしない時間は永遠のように感じる。これは一種の職業病だろうか?
夜の為に大人しくしているつもりだったが、近くを散策してみる事にした。
フロントの近くに腰掛ける店番代わりの老女に声をかける。
ムタイと違って彼女に日本語は通じない。大降りなジェスチャーで、近くを歩いてくると伝える。
最初は訳のわからない顔を向けていた彼女も、やっと分かったと言うような顔をして手を打つと、時計を見ながら右手の5本指をしっかりと開き、左手で人差し指をたてた。
6時までに返ってくるようにと言う事だな、と納得して大きく頷いて外に出た。
裏手に回ると鳥を手にした少年の座っているのが見えた。
近づくでなくそのまま足を止めてじっと彼の行動を見守った。
ぐったりと動かない鳥を台の上に載せると手際よく首を跳ね羽を毟っていく。既に血抜きをした後なのか、流れ出るほどの血はない。
足下にはまだ生きている仲間たちが餌をついばみ、羽を広げ歩き回る
息を呑んだのはほんの一瞬だ。
腹を割き取り出される内臓を見つめながら、日本にいたら残酷だとばかりに目を背ける光景を自然と受け入れていた。
少年は黙って作業を続ける。彼の切り分ける肉は今日の食卓に上るのだろう。
ここでは誰にとってもそれが当たり前で日常の事なのだ。
大抵の日本人はスーパーや肉屋で既に綺麗に切り分けられ元の形状を留めない肉片にしか触れることはない。そこには糧を得るため奪った命に対する感謝も感動も尊厳すら何一つない。剰れば捨てられる。
勿体ないと言う以前に犠牲になってくれた者に対する感謝は忘れてはならない。しかし、それを実感出来る社会で育っていない。
当然でないものを当然と、不変でないものを、不変であると信じる事に何の疑いをもつ必要がなかった。
そっと少年の側を離れ、先へと進む。
今までそんな事を考えたこともなかった・・・とは言わない。頭の片隅で単なる情報としては知ってはいるが、それを深く考え、行動に移さなければならない必要性に迫られる事はない。いつか、考えねばならない時がくるかどうかの全ては他から与えられる運次第である。
大きなうねりの中では自分一人で何かを考える事すら許されない。
そんな事をまだ暫く考えていたが、ムタイが執拗なまでに近寄ってはならない。と念を押した森の入り口に辿り着いた。
さほど宿から遠くはない。
鬱蒼と生い茂った木々に阻まれる道の、その奥を覗いてみるが先を見通すことが出来ない。
再びムタイの言葉が思い出される。立ち入るつもりで外へ出たと言うのに、やはり聖域を汚す罪悪感に足は止まったままだ。
落ちる陰が灰色を成すその先に鮮やかなコバルト・ブルーを見たような気がした。
その瞬間、呪縛が解けたように足は動いた。自由になった身体は自分の意志とは関係なくまるで惹き付けられるように奥へ奥へと分け入っていく。
つづく
第683回「体はどこから洗いますか?」
2009-02-28
どこから身体を洗う?
とか、昔、小学校の頃に母親が同じような質問を家族にしていたなぁ。
みんな、右手とか左手とか、いろいろあったけど・・・・・
自分は何が何でも首からだと言い、その理由で以てそれ以外の答えの人間を全否定していたよなぁ・・・・・(^^;)
顔から遠い場所から洗うのなんて汚いとか、気持ち悪いだとか、絶対いやだとか・・・・。
別にどこからでもいいじゃん。
最終的に綺麗に汚れを落とすのなら・・・・。
経過が重要な作業ならともかく、結果さえあればいいものに自分は拘らない。
この前にトラウマのトラバがあったけど、トラウマとまでは言わないけれどもこの質問もそれなりに不快な思い出に結びつくなぁ。
【短編】情炎 ~辰哉そして竜真~ 参
2009-02-28
生きていて欲しい。辰哉は今まさに奪おうとした命を前にそう強く願った。
激しく相反する矛盾。
いつかは誰かのものになる事を考えるだけで紅蓮の炎が胸を焦がし、共に朽ちてしまう事を思うだけで甘美なまでの喜びを感じるのに、例え自分がこの世にいなくても、二度と光溢れる世界で茅子が微笑むことのない現実はやはり同じくらいの苦しみを辰哉に与える。
「わたしは、お前にこの世界で生きていて欲しい」
絞り出す声は掠れる。
それでもはっきりと茅子にそう告げた。
「あにさま・・・・」
「苦しい・・・辛い。誰かのものになる日を思うと、この身を引きちぎられるほどに痛みを感じるのに、お前の輝くばかりの人生をわたしが奪ってしまう事はもっと堪えられない」
「あにさまの中では、茅子の気持ちはどうでもいいのね」
同じ辛さを味わっているのだと言う事を茅子は訴える。
はっとした顔をするが、それでも茅子の願いを聞き入れる事が出来ない。
「すまない」
辰哉は首を降り続ける。
「茅子・・・・わたしを想ってくれるのならば、どうか生き抜いてくれ。こんなものは一時の熱病だ。長く時を過ごすうちに痛みはやがて薄らいでゆく」
返事のない茅子をしっかりと抱き締める辰哉の腕の力が緩むことはない。
茅子は目を閉じてじっと辰哉の存在だけに全神経を集中させた。力を込めた腕。震える声。高鳴る胸の鼓動。熱の籠もった身体。ただ身体を寄せあってるだけなのに、その全てに辰哉の心が込められている事を感じる。
それは強く茅子に伝わってきた。
こんなにも茅子が愛おしいと全てで叫んでいる。
永遠にその腕に包まれていたいと願う。しかし、それは叶わないと知る二人は他の誰でもない自分自身で決着を付けねばならない事を互いに承知した。
「あにさま、もうわかったわ」
茅子は辰哉の手を解きゆっくりと身体を起こした。
思わず引き留めようと伸びそうになる手を引っ込めた。
茅子はそんな辰哉の顔の間近に顔を近づけた。唇が触れるか触れないかの距離で自分の映る瞳をじっと覗き込んだ。
「あにさまを困らせる真似は、もうしないわ」
指一つ動かせずにいる辰哉に精一杯の笑みを見せて茅子は一人出ていった。
茅子が去った後も辰哉は身体を起こすことが出来なかった。余韻に浸りながらも一人残された身体は急に冷え込む。
蔵から出てきた茅子を迎えたのは、抜けるように青い空とまばゆい太陽の日射しだった。
誰からも祝福される筈もないほとばしる恋情を口にした事で後ろ暗さを覚える茅子にその光は突き刺さるように痛い。
翳した手は陽の光を遮り茅子の顔に蔭を落とす。
母屋へ戻ってきた茅子の前に竜真が姿を現した。
「竜真さん・・・」
目を伏せて通り過ぎようとする茅子の前を竜真の手が伸び、進路を塞ぐ。
「手を除けて下さらないかしら」
「さて、お姫様はこれで諦めがついたとでも言うのかな?」
茅子は口を紡ぐ。
竜真は茅子の手を取ると柱の影へと引き寄せた。
「二度と辰哉さんを困らせるような真似はしない?あの言葉は本当かな・・・・」
耳元で囁く竜真の言葉に茅子はきっと睨み付けた。
「失礼だわ。覗き見ていたのね」
今日の竜真は、やはりいつもと全く違っていた。
「だって、君、気になるだろう?君と辰哉さんの関係がどうなるかで僕の立場も変わってくる」
茅子は溜息を吐いた。
「そうね。はっきりさせねばならないわね」
額に掛かる前髪を掻き上げる。
そんな茅子の何気ない仕草は竜真に恍惚とした感覚を与え身震いさせた。
「それで・・・、僕の元へ来る気になった?」
茅子はゆっくりと首を横に振った。
「何故・・・・!?辰哉さんの事はもう諦めるのだろう?」
「諦めるのと忘れるのとは違うわ。わたしにはあにさまを忘れることなんて出来はしないと言うことを思い知ったの。かといってあにさまへの想いを抱いたまま貴方の胸に飛び込むことも出来はしない。ごめんなさい」
茅子のそれは竜真も心のどこかで予感していた答えでもあった。
「あぁ、いっそあのまま辰哉さんが強引に君を奪っていたなら・・・いや、君に僅かも心を洩らしはしなければ結果は違っていただろうに。・・・・全く、憎らしいくらいに冷静で、冷静でいながら隙をみせる。辰哉さんと言う人は・・・・・・」
肩を竜真の手に掴まれたその瞬間、真っ赤な水が噴水のように噴き上がるのを茅子は目のはしに捉えた。
一瞬の事だった。茅子はその赤いものが何であるのか、すぐには気づかなかった。
着物の襟を濡らし、なま暖かいものが茅子を染め上げていく。
竜真の手の中で鋭利な刃が不気味な輝きを見せている。
心に宿る狂気がその瞳にはっきりと表れた。
「いつから・・・・・」
頸動脈を一断され、失われていく大量の血液に茅子の思考は浮遊し、視力を奪い手足を萎えさせた。
「あにさま・・・・」
茅子は最期の瞬間まで辰哉の事を思う。
竜真の腕の中に倒れ込んだ茅子の顔は蒼白だ。
薄暗くなった視界にぼんやりと映る目の前の竜真の影に辰哉を重ね僅かに微笑んでみせた。
茅子の身体は一気に体温を失っていった。
竜真はそんな茅子を腕に抱き寄せて口の端を歪めた。笑みを浮かべようとしたのだ。しかし、強ばった筋肉がそれを許さなかった。
茅子の途切れたままの言葉を繋ぐ。
「いつから?さあ、いつからなんだろうね。君が僕の語る声に目を閉じてうっとりとした聞き入る度だったろうか・・・それとも、辰哉さんという太刀打ちの出来ない大きな存在が僕の前に立つ毎にだろうか、いや、この押さえに押さえたどろどろとした劣等感が噴出したのは、あれを辰哉さんが読んだと知ったその瞬間だ。僕しか知らなかった君の秘めた思い・・・・・。それを知られたあの一瞬に堰は切れたんだ。
・・・・あぁ、あぁ、君には分かるまい。たといそんな風に自分へ向けられたものでなくとも、君の秘密を共有しているというだけで、僕は満足だったんだ」
独白を続ける竜真の声は、もう茅子の耳には届かない。瞼は重く閉じられたまま、指先一つぴくりとは動かない。ただその表情には苦痛の色はなく、まるで眠っているかのようだった。
竜真は愛おしげに茅子の身体を抱き上げ、足を一歩、また一歩と滑らすように前へ出し奥の部屋へと進む。
つづく