プラトニック 前編
2008-07-09
淡々と・・・ジャンル恋愛大地の続きを書かずに何やってんだろ(^^;)
********************************
待ち合わせの喫茶店。
ふと、目の前のカップルに目をやる。
高校生・・・・。つきあい始めてまだ日が浅そうだ。ぎこちない仕草。時折会話が途切れている。そんな二人を見つめながらあの頃を思い出す。
春、入学したての高校一年生。
俺は初めてあの人に出会った。
バスを待っていた時だ。
下校時間には本数の多いバスも時間が少しずれると1時間に2本くらいしか通らない。既に行ったばかりのバスに溜息を尽きながらベンチに腰掛けて待っていると坂の上の正門からあの人が駆け下りてきた。
バスの時刻表と時計を見比べて出たばかりであろうバスに溜息をついている。俺と同じだ。何だかおかしくなった。
スポーツバッグを下ろした、その場でバスを待つのだろう。
肩より少し長い髪、前髪は目にかかるくらいに少し長めで両サイドに流している。馴染んだ制服が上級生である事を示していた。少し大人っぽい顔立ちに意志の強そうな目がとても印象的だった。
自分はまだ高校生になりたてで、中学までは坊主頭が校則だったので髪も生え揃っていない。
髪を延ばした上級生を思うとガキっぽい自分の頭が少し恥ずかしくなった。
だから5mほどの距離が少し残念なような、そうでないように感じている。
もう少し側にいってみたい・・・。もう少し、こっちに来ないだろうか・・・そんな事を思っていたら、彼女がふいにこちらを振り向いた。
目が合った。見ていた事に気づかれただろうか・・・・。俺は目を逸らす事も出来ずにそのままの状態でぶしつけに見てしまった。あの人の方が先に目を伏せた。
バスが到着する時間が近づくに連れ段々と生徒が降りてきた。ふたりっきりの時間は終わった。
数人の男子生徒があの人の側に寄っていって何かを話しかけている。同級生・・・なんだろう。馴れ馴れしそうなのが気に掛かったけれどもあの人の表情はあまり変わらない。
彼氏・・・ではなさそうだ。何故かほっとした。
俺はあの日からあの人の事が気に掛かって仕方がなくなった。
一つ年上だと言う事を知った。上級生とは階が違う。出会う機会は殆どなかった。運が良ければ移動教室の時や食堂で・・帰宅時に偶然に出会える。単にその偶然を期待するのみである。
数度見かけたが、いつも男子生徒が側にいた。
会えない・・・となったら気に掛かる。俺の心は話したこともないあの人で一杯になった。
そのままの状態で、やがて俺は2年になった。当然のようにあの人は3年生だ。二人の距離は一向に縮まらない。
当然だ、何も行動を起こしていないのだからそれ以上の進展がある筈もない。
相変わらず知っているのは名前だけだ。名前は、友人が同じ部活だったから聞き出した。
ただ、最近視線を感じる。登校時ふと上を見上げるとあの人の姿がある。食堂で出会っても気がつけばこちらを見ているあの人がいる。俺を見つめているのかとつい自惚れてしまう。
いや、待てよ。いつも一緒にいる俺の友人はあの人の後輩だ。
そんな都合のいい話がある訳もなく、こいつを見ているんだな。と納得した。
二人は結構、仲がいい。夏休みに二人で遊びに行ったと楽しそうに話しているのを聞いた。
俺はその話を聞きながら羨ましく思った。平日のあの人はどんななんだろう。
想像ばかりで日毎に思いは募るのに俺は一歩も踏み出せないままだ。他の女子に目がいくでもなかった。
時が経つのは早いもので、出会ってからもう1年半経っていた。来年の春にはあの人は卒業してしまう。そうしたらもう二度と会えないだろう。俺の初恋はこうして終わるのか・・・・。
何だか自分が酷く小物に思えてくる。
転機が訪れたのは体育祭の時だった。
あの人が俺の持ち物を欲しがっていると聞いた。
聞き間違いか?いや、しかし確かに俺の名前だ。
俺は友人たちにからかわれているのだと思ったが、それでも、やっぱり期待してしまうもんだ。
どうこう言おうが、もうすぐ永遠にお別れだ。どうせ離れてしまうのならそろそろ自分で決着を付けた方がいいんじゃないか?
幕引きは美しく。それが俺の美学だ。・・・とかっこつけたところで、単にふられるのが怖くて今まで引き延ばして来ただけだ。今回も、可能性が0でない事を知ったから行動に移すまでの事。
俺って言う奴はどこまで臆病者なんだろう、と情けなくなる。
それでも電話をかけるのには勇気がいった。電話番号は学生簿でわかる。何度も受話器を取り、そして置いた。
何を話すか、何と伝えるか、何度も胸の中で反芻する。
今度こそ決心を付けた。ダイヤルする指が震える。
まただ・・・・。途中でダイヤルするのを止めた。
なんって情けない!
長くため息をついた。さっきからこんな事を小1時間も繰り返している。何度も深呼吸をする。全くこれで何回目だ。これが最後だ。今度こそ覚悟を決めた。途中でダイヤルを止めない。受話器を置かない。自分に対して言い聞かせるように呟く。
呼び出し音が鳴る。ガチャリと受話器を取る音。家の人の声だろうか・・・。もう後戻り出来ない。
心臓が飛び出そうだ。狼狽せずにちゃんと言えているのだろうか。それすらも自分で判断出来ない。
取り次いでもらっている間に少し冷静になった。しかし、それはほんの僅かの時間だ。
あの人の声が聞こえた。友達と話している声は聞いた事がある。けれど、これは俺に対して掛けられる初めての声だ。
心臓の音がうるさい。うるさい・・・・何を喋っているのか自分でも分からなくなってくる。あの人は俺の事を知っていた。
何を喋ったのだろう。とにかく付き合って欲しいという事は言ったと思う。
答えは・・・イエスだ。
受話器を置いた。
天にも上るような気持ちと言うのはこういうのを言うのだろうか。思わず飛び上がった。踊りだしたい気分だった。その日は本当に眠れなかった。
親しくもない、学年も違う。話したこともない相手と両想いになれる確率なんてあるのだろうか。
しかし、そんな思いは長くは続かなかった。
スポンサーサイト
プラトニック 後編
2008-07-10
学校へ行ってもいつもと変わらぬ日常。付き合ったから何がどう変わるでもなかった。
相変わらず学年は違う。会える機会など1週間のうちに数える程だ。何をどうしたらいいのかなんて知らない。分からない。
同級生だと分かっていても他の男子生徒と喋っているのを見かけると何だか腹立たしくもある。
俺だって、そんなに側に寄れない。あの人から俺のところへ来る事はない。俺もそうだ。人がいるところであの人に近寄ったりしない。
違う事と言えば・・・笑いかけてくれる事だろうか・・・・。でも、それだけでは物足りない。
もっと、もっと・・・何かもっと・・・、そう思ってもどう行動していいのかどうしても分からなかった。
そう言えば、電話もあれきりだ。もしかしたら、あれは自分が勝手に思い描いた夢だったんじゃないか?
そんな気にさえなってくる。
再び受話器を取った。緊張はするものの、今度は最初の頃ほどではなかった。
声に抑揚がない。電話は迷惑なんだろうか、ふとそんな気持ちが過る。
いや、でもそれならあの時OKする筈がない。自分を奮い立たせて今度の休みにデートに誘ってみた。やっぱり断らない。
場所はお互いの中間地点となる駅の前に広がる緑地公園にした。
二人で決めた。
そう言えば・・・と思い当たる。返事はOKだったけれども俺の事をどう思っているのか聞いていない。・・・自分も言っていない事に気がついた。
相手が何を思っているのか簡単に知る術があればいいのに。
俺の心は千々に乱れる。
初秋・・・季節はいい。初めてのデート。知らない事はこれから知っていけばいい。わからなければ聞けばいい。いろんな事を話そうと考えていたのに言葉は上手に出てこない。でも言葉がなくても側にいるだけで嬉しくなってくる。
手作りの弁当には感激した。
遠くで見ているだけだった人がこんなに近くにいる。それだけで胸がいっぱいだ。
二人並んで辺りを散策する。
周りはもっと人が多くて騒がしいかと思ったらそれほどでもなく静かだ。手を繋いでみたくなった。どのタイミングで手を繋げばいいんだろうか。そんな事ばかりを考える。
今の俺の頭の中を知られると呆れられるだろうか?
ふいに視線の先に一組のカップルが目に入った。思わず足が止まる。
178cmの俺からは見えるがそれより15cm低い彼女は気が付いていない。ちょうど木の枝が邪魔をしていた。
気まずい思いをしたくなくて、あっちに行こうと指をさして先に歩いて別の道に入った。
何があったのか訊ねられたが、何と言って答えていいやら困った。
二人は人気のないところで、まあキスしていた訳だ。彼女も何となく言わんとした事を察して俯いた。俺の頭によからぬ考えが浮かぶ。
チャンスか?
しかし、思いとどまった。手も繋いでいない。そうだった。まだ手も繋いでいないのだ。
焦ると逃げられる・・・じゃなくて、嫌われるかも知れない。俺は自制した。嫌われるくらいなら何だって我慢をしてやる。それにガツガツするのは格好悪いと思っていた。
ろくでもない行為に及ぶ前に早々に彼女と別れて帰った。まるでお子様タイムだ。
デートってこんなもんなんだろうか・・・。俺の頭の中で自己嫌悪と後悔がぐるぐると回る。
悶々とする日が多くなる。
あの人は今は俺の彼女・・・なんだよな。自問自答する。
ライブをする。と言っても頑張ってね。の一言で終わった。彼女なら見に来てくれるんじゃないのだろうか・・・・。疑惑を打ち消す。
会えば、俺の考えすぎだったと思い、離れてしまうと不安で一杯になる。
そんな思いを抱えたまま、3月、彼女の卒業。
春休みのある日、電話をかけた。
もう終わりにしよう。
簡単に言う俺に彼女は何も聞かず同意した。
半年・・・ほんの3,4回デートした。電話も数える程度だ。彼女からかかってきたのは2回ほどだっただろうか・・・。
もう、どうでも良くなった。
付き合っている時よりも一人で思っている時の方が楽だった。結局あの人は俺の事が好きだったのだろうか。
俺から電話して始めた付き合いも俺から終止符をうった。
それから数日して電話があった。
あの人の友達と言う人からだった。あの人は泣いてばかりいる。と言う。
最後にもう一度会って話をする事になった。
彼女はいつもと変わらない。本当に泣いていたのだろうか?
彼女は卒業し俺は3年だ。
進路は決めている。この土地から離れて遠くの大学へ入る。どうしてもそこへ行きたい。勉強に専念したい。そう告げた。
ばかばかしい。勉強に専念出来ないのは俺が悪いだけだ。そんな一方的な理由にも何も言わない。頑張ってね。と言われると胸が痛む。
大学に受かったら今度は4年も離ればなれだ。おまけに卒業したからと言ってこっちに戻ってくるとは限らない。待っててくれとも言えない。それにそんな先の事わからない。
それきりあの人には会わなかった。連絡もしなかった。
次の年、見事に大学には落ちた。
浪人して翌年合格した。
俺はあの時一つの決心をしていた。大学に受かったら・・・その時、俺の気持ちが変わっていなかったらあの人に連絡を取ろう。・・・・そしてもし、もしもあの人もそうだったら・・・・・。
今、あの人を待っている。
あの人が姿を現した。変わっていない。俺を見つけてこちらへやってくる。
好きで好きでたまらない。
あの人を見てそう思った。自分の気持ちで精いっぱいでぎこちなさばかりが残ったあの時・・、今度は、今度こそうまくやれるだろうか・・・・・。